その声に振り返ったときに目が覚めました
ーー以下youtubeより抜粋編集
父は私が生まれてすぐ位に病気で亡くなり、母は私が4歳になった頃、事故死したのだと聞きました。
私には10歳上の兄がいましたが、兄と二人残されて、親戚をたらいまわしにされていたようです。
肩身の狭い思いをしていた兄は高校を出るとすぐに住み込みの働き口を見つけて出ていきました。
私が10歳になったころ、私が世話になっていた親戚の家へ兄が来て、落ち着いたので引き取りたいと言ってきました。
親戚では私をかわいがってくれていて、もめましたが、私は兄の世話になりたいと言って、兄についていきました。
それから兄と二人の貧乏生活が始まったのです。
ーー
私は二人の生活がどれほど大変なものか全くわかりませんでした。
それでいつもわがままを言い兄を困らせていました。
持ってきたランドセルが使えなくなったというと、兄は、中学生の居る家を訪ねまわってランドセルを譲ってくれないかと頼み込んで手に入れてきた。
それを私は気に入らないと言って兄を困らせたりした。
ーー
また人形が欲しい服が欲しいと言って駄々をこねたりしても、兄は困った顔をするだけで叱りはしなかった。
でも私が靴を万引きした時には、すごくしかりつけ、翌日は店に「ご迷惑をおかけしました、もう二度としませんので許してください」と謝りに行かされました。
3日後にはその靴が玄関に置いてあった。
「貧乏に負けて卑しい人間になったらあかん」
と兄は言って仕事に出かけて行った。
どうしてお金を工面したのか、きっと無理をしたのだろうと思うと、もう兄を困らせられないと思いました。
ーー
それからはわがままを言わず、すすんで兄の手伝いをするようにしました。
高校へ進学しないで働くと言うと、兄は悲しそうに私を見て、貯金通帳を見せ、お前の未来をわずかなお金のことで、壊してしまいたくはないと言った。
そこにはいつの間にかお金が貯められていた。
私が高校を卒業し勤めるころには、外食ができるほどの余裕ができていた。
ーー
そんな時に兄は事故で亡くなってしまった。
私は何日も何日も泣いて暮らしました。
そんな私を見ていた職場の少し年上の男性が、兄を失った話を根気よく聞き、共に悲しみ、慰め励ましてくれた。
やがて元気を取り戻すと、その男性を好きになっていて、相手も私を好きだと言ってくれた。
ーー
その男性との結婚が決まり、その結婚式の前夜、兄が来てくれた。
「お前が結婚か~」
とのんびりと話しだしました。
私は夢中でしゃべろうとしましたが、声が出ない。
「今日は謝りに来たんや、寂しい思いさせて、貧乏させて、本当にすまんかった」
「お前がわがままを言わんようになったときにはちょっとつらかった」
私は夢中で「謝らなあかんのは私の方や、お兄ちゃんありがとう、ランドセルも制服も学費もありがとう、靴は今も大切に持っている」と心の中で叫んでいた。
それが聞こえたのか兄の姿は掻き消えた。
ーー
それから眠りについたのか、夢を見た。
住み込み労働者にあてがわれたアパートの前で幼い私は、兄と雪だるまを作って遊んでいました。
そこには母もいて、「じぁあ行ってくるね、外は寒いからおうちに居なさい」と私のほうを見て言った。
私は何のためらいもなくうんと言って、アパートの階段を駆け上がりました。
その後ろから兄が声をかけてきた。
「おい、お前の事迷惑やなんて思たことないぞ、俺の方こそ先に死んでしもてすまんな」
その声に振り返ったときに目が覚めました。
ーー
私は、夢で見た懐かしい母や兄の元気な姿にそれこそ号泣してしまった。
鏡に映った私、花嫁の顔は、パンパンに張れていました。
花婿は私の顔を見て、後でその話を聞きたいと言ってくれた。
後日、結婚式の写真を見せながら、夫にこの話をして、どこかに兄が映っているかもしれないと言い一緒に兄を探しました。
もちろんどこにも兄は映っては居ませんでした。
今日が結婚記念日なので思い出して書きました。
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