バノンはその外見からの印象とは異なりゴールドマンサックスでも辣腕家だった
ーー以下「宮崎正弘ブログ、書評」より抜粋編集
ジョシア・グリーン著 秋山勝訳『バノン 悪魔の取引』(草思社)
政治家ではなかったドナルド・トランプを米合衆国大統領にした男、それがスティーブ・バノンなのである。
果たして彼はどんな人物なのかと世界中で興味を持たれた。
それが書物になった。
ーー
そこで本書はまずバノンの過去を追う。
両親はアイルランド移民の末裔、カソリック教徒。
つまり米国では少数派である。
これは、ケネディ大統領を尊敬する一家であろうと想像させる。
ーー
ケネディはアイリッシュとして差別され、しかもプロテスタントの国で大統領になった初めてのカソリック教徒であり、アイルランド移民が特別な感情を持つのは当然だろう。
バノンはそのような家庭で生まれ育った、カソリック教徒である。
大学を出た後、軍隊に勤務すること七年、カーターがテヘラン米大使館人質奪還作戦で大失敗した時には、インド洋上の艦船にいた。
除隊後、29歳で、ハーバド・ビジネスス・クールでビジネスを学ぶことを選んだ。
年齢的には遅すぎる選択である。
ーー
理由?彼は、どうしてもゴールドマンサックスに入社したかったからだといった。
ーー
そして奇跡が起こった。
たまたまパーティで知り合って意気投合した相手が、ゴールドマンサックスの幹部だったのだ。
さっそく彼は、ゴールドマンサックスの幹部らに、バノンを紹介する。
すると幹部らは、バノンの話術に魅了され、採用を決めた。
ーー
著者は、実際にゴールドマンサックスを取材している。
するとバノンはM&A部門で大活躍し、やがて香港で会社をたち上げ成功させたのだという。
さらにハリウッドに進出して映画のプロデューサーに変身、これも成功させている。
さらには大富豪をつぎつぎとスポンサーとしてつかみ、保守派サイトの「ブライドバード」を影響力を発揮する保守派のメディアに仕立て上げた。
ーー
バノンはその外見からの印象とは異なりゴールドマンサックスでも辣腕家だったのだ。
ーー
当時ドナルド・トランプは当選など絶望的とされ、泡まつ候補の一人だった。
トランプは、バノンの経歴に興味を持ち、招いて彼の話を聞いた。
そして、バノンの主張に共鳴し、選挙途中から、かれを選挙対策陣営に引き入れた。
以来選挙対策をバノンが主導することとなった。
ーー
バノンは、ヒラリーを対立候補に決め、いかにしてヒラリーを攻撃するか戦術を練った。
その読みは当たり、ヒラリーが対立候補となったのだった。
そしてバノンにとっては2度目となる大きな奇跡が起こった。
開票日、スタッフはトランプの当選を予測しておらず、選対本部長のフリーバス(共和党全国委員長)は荷物の片づけをはじめていた。
そこへ、トランプ当確の知らせが入ったのだ。
ーー
トランプを思想的に支え、ヒラリー攻撃の戦術を編み出した男は、『タイム』誌の表紙になった。
しかしバノンは、ホワイトハウスのなかで、歯に衣着せず大胆に周辺を批判し、娘婿のクシュナーやジョン・ケリーとも対立してしまう。
それがもとで、やがて解任に追い込まれる。
しかし、バノンは今も、意気軒高として、毎週トランプとは電話を取り合っているという。
ーー
バノンは、ホワイトハウスを去ってからも、国際的な影響力を保ち続け、香港から北京へ、日本にも講演旅行でやってきた。
最近はパリにも現れ、リベラル勢力から極右とされたルペンとも会った。
北京でバノンは王岐山と面会したかと思うと、米国へ帰って、王岐山を批判してやまない亡命者と面会した。
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本書は、バノンがトランプに与えた最大の影響力は「中国観」であるという。
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トランプはこの3月になって、ティラーソン国務長官を更迭し、ゲリー・コーン国家経済会議委員長を更迭し、さらにはマクマスター安全保障担当補佐官も馘首した。
そして、ポンペオ、ナバロ、ボルトンをそれぞれ後任に宛てるとした。
いずれも対中国タカ派であり、この人事を見ても、これからの米国の対中国政策の大変化が予測できる。
ーー
著者は、バノンの「中国観」を次のように述べている。
「メディアは、移民やイスラム教に対するバノンの過激な考えに焦点を当てる」
しかしバノンは、それらを脅威だとは考えていない。
バノンが脅威だとしているのは、
「台頭する中国に技術移転を強いられた結果、アメリカの経済力は今後十年のうちに搾り取られ、見る影をなくしていく」
「そうなれば、時を置かず中国が世界を牛耳る」
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「この恐怖のシナリオはすでにある段階、バノンが『蕃族の管理』と呼ぶものに達した」
ーー
トランプが打ち出した政策の核心はこの脅威に対抗するために築かれたものだ。
「(トランプの)経済ナショナリズム運動の狙いは中国に対抗すること」 なのだと。
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「バノンはトランプに世界(の見方)を授けていた」
「理路整然として、内容も首尾一貫した世界観だ」
それが、トランプによって最終的に『アメリカンファースト』と命名されるナショナリズムなのである。(p81)
本書は、波乱万丈の経歴の持ち主、「危険な男」、ドナルド・トランプを米合衆国大統領にした男、スティーブ・バノンの物語なのだ。
ーー
ーー(宮崎正弘氏のコメント)
日本のメディアは、「大統領補佐官解任以後の」バノンの動静を伝えません。
が、バノンとトランプは電話回線で繋がっています。
バノンは辞任直後にも北京へ出向いて、王岐山と会っていますね。
あの打算的な支那人が、なぜ解任された男に会うと思いますか?
北京が掴んでいたワシントンの舞台裏の情報は、バノンの重要性を示していたからでしょう。
またあの時点でバノンが王岐山と会談したのにも意味があります。
アメリカの情報筋が、王岐山が次の対米交渉の中心人物となると事前に分析していたからです。
王岐山は現実に国家副主席に選ばれています。
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コメント
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>縦椅子様 本日も更新有難うございます。
>>スティーブ・バノンの対中戦略
読んで居てなる程と思った点が2つあります。 1つは、バノンが、アイリッシュ系である、つまり古代に大ブリテン島に亘って来た、農耕民であるケルト族の末裔であり、ゲルマン人の亜種である、後発の侵略者アングロ・サクソン人とは、人種を異にして、永年虐げられてきた歴史を持って居ると言う事で、是は、米国の白人支配層のWASP=White, Anglo-Saxon, Protestant)とは、一線を画する集団であると言う事実で、トランプを支支持する白人層の正体が見え始めた感じでしたね。
2つ目は、バノンとトランプの縁は切れて居なかったと言う事です。 それはつまり、習近平が盟友王岐山を強制的に引退させたのと似て居ます。 王岐山は副主席として公に復活しましたが、バノンは、主要閣僚を対中強硬派に挿げ替える事で、パンダハガーの連中と縁を切って、シナの新皇帝習近平に対峙したのでしょう。 この不退転の布陣は、バノンの
アドバイスの成果だと思いますね。
何故ならこの先、朝鮮半島問題が方着いたら、次は、ロシアも巻きこんだ極東の軍事問題、そして、オバマ政権の置き土産である、南シナ海問題である事は明瞭だからです。 其れともう一つ、トランプ政権は本年末に中間選挙を控えて居ますが、是までの通例として米国では、国家が戦争状態、準戦争状態にある時に政権が交代した事は無い、と言う実績があり、其れ形に合理的な理由が有るからなのでしょう。 是も、政治家が持つ運の一つだと言う他は無い事です。
問題は、国内に居るグローバリスト「=共産主義者」共の処遇です。
例えば、銃規制の問題。 共和党の大きなパトロンでもある全米ライフル協会は、昨今相次いでいる、学園内の発砲事件で、少なくない教師や学生が、祖の犠牲になっている事に、世論が反発し、其れを亦、グローバリスト達が、政権批判に政治利用する。
問題は昔からあり、規制は民主党政権でもやって居ないのに、何故共和党の時だけ騒ぐのか、と考えれば、マスメディアの主張や指摘は、既に使い古されたモノであろう。 ならば問題は、民間人が十を持って居なければ安心して家族を護れない社会の治安状態にあると言う指摘が為されなければ、問題を解決する本当の議論にはならない。単なる政治利用だけで、トランプを引き摺り降ろせば、元の木阿弥では米国社会は永久に銃の脅威から解放される事は無いだろう。
そして、米国社会は250年前の常識のママ、今後もその野蛮さを正当化して行く恥ずべき国であり続けるでしょう。曰く、「隣人は全て犯罪者」と言う事ですから。
投稿: ナポレオン・ソロ | 2018年3月27日 (火) 09時55分
米国は中国に肩入れすると、しばらくすれば中国から痛い目に遭わされています。
これは、20世紀から変わっていないと思っています。
歴史の浅い国だから、歴史の長い国に対してのあこがれがあるのかも知れません。
もっとも、中国なんて政権が変われば支配民族も変わるのですが、これが歴史の浅い国には理解できないことなのでしょう。
共産支那に振り回されている国民党を支援していた米国は、大東亜戦争での勝利にも関わらず、その後の蒋介石の戦いを指導しなかったことから、大陸を中国共産党に奪われてしまい。大きな禍根を残しています。
もっとも、中国共産党という共産政権ではありますが、実態は共産党の独裁政権であり、独裁の中身は共産党の思うがままの政治を行っているだけです。
中国共産党ですけれど歴代の政権の真似はしており、これは簡体文字を作ったことだと思います。今では、この文字を使ってデモ行進の看板に使う左翼がいますけれど、この簡体文字は日本の教科書で教えていませんから、左翼の流行なのでしょう。
マルクス主義の知識はもとより、共産主義や社会主義の知識も十分に持ち合わせていませんが、独裁主義のことだけはおぼろげながらも理解できます。
そして、日本は民主主義で三権分立が機能していると思ってきたのですが、民主党政権と現在の野党は、これが理解できていると思いません。
その理由について、民主党は政権にあるとき、尖閣諸島で中国漁船が巡視船に衝突しました。
このとき、政府は沖縄地検に、中国漁船の船長を釈放させたとしか考えられませんでした。これは、政府の司法に対する、越権行為でした。
また、今回の森友問題で、野党は拘置中の籠池氏に接見しました。
その理由は、森友問題を国会の参考とするためですが、拘置中の容疑者は司法が犯罪の捜査のために拘置しているのです。
それを、三権の立法機関である国会が接見すると言うことは、立法が司法よりも、優先するとの考え方があるのだと思います。
三権は、対等であるから三権分立が成立するのです。
国会が司法よりも上位にあるとの考えは、三権分立に対して僭越だと思います。
このことについて、憲法第62条の国政調査権があるから立法が優先するとの考え方もありますが、これに拘置中の容疑者の接見が含まれるというのは、どうでしょうか。
政府、立法、司法の最高責任者の、協議をしたとでも言うのかと思います。
三権分立は、これを侵した場合に大政翼賛会のようなことを防ぐためであり、韓国の大衆運動であるローソクデモで政治が影響されないための、民主主義を守る防波堤だと思います。
もっとも、籠池氏の場合は、天性の詐欺師だと思います。
詐欺師が嘘つきだと言ったとして、喜んでいる国会議員の、品性のなさに呆れています。
バノン氏は、中国と中国人を研究して、特質を理解されたと思います。
中国は、帝国主義の覇権国家だと思います。
中国共産党政権は、成立後に満州を占領して消滅させると、チベット・新疆ウィグル・南モンゴルを侵略、占領しますと自治区にしました。そして、元は唐の領土であったとして、正当な領土だと主張しています。
もうしばらくすれば、もっと南や西の国を自国に組み込んで、元は元の領土であったとして、正当な領土だと主張すると思っています。
こう考えますと、中国の行動がよく見えると思っています。
投稿: ポッポ | 2018年3月27日 (火) 12時02分