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2017年6月 3日 (土)

日本では「謀略のために偽造文書を使う」というような類いの娯楽小説が殆どありませんね

ーー以下「宮崎正弘ブログ◆書評」より抜粋編集qazx

ウンベルト・エーゴ著『プラハの墓地』、橋本勝雄訳(東京創元社)

ーー

ショーン・コネリー主演の映画『薔薇の名前』の原作者の最新作。

ーー

『薔薇の名前』という難解な物語の舞台は中世の北イタリアにある大きな修道院だ。

ショーン・コネリーは、そこで次々と起こる殺人事件を解決するために招かれる。

調べると、修道院の蔵書にアリストテレス本があり、修道院ではその写本が行われていた。

ショーン・コネリーは、その写本にかかわった人物が殺されていることを突き止める。

アリストテレス本にはバイブルに記載のない「笑い」が書かれている。

この事実の拡散を防ぐことが殺人の目的だった。

バイブルというのは「(ユダヤ人の)本」と言う意味だ。

バイブルの世界(名前)に、アリストテレスという現実(薔薇)が突き付けられた。

まさに文芸復興のその衝撃を、見る人が見、読む人が読めば大いに楽しめる物語にしたものだ。

バイブルを知らなければわかりにくい作品だった。

ーー

新著の背景にもバイブルとユダヤが存在する。

物語は、「プラハの墓地」にはじまる。

「ある本でプラハのユダヤ人墓地の美しい版画を見つけた」

「今はうち棄てられ、ひどく狭いところに一万二千ほどの墓碑がある」

ーー

評者(宮崎)はチェコの首都プラハ旧市内にあるユダヤ人居住地(シナゴーグ)、その裏山にあるユダヤ人墓地を見に行った。

そこには、奇妙な、不気味なユダヤ人墓地が残されていた。

狭い土地に、ぎゅうぎゅう詰めの墓石の上にも墓石、石碑などを積み重ねてあったのだった。

ーー

物語の時代、欧州では、反ユダヤ主義の嵐が荒れ狂っていた。

ーー

当時フランスは普仏戦争の敗北(1871年)でドイツに奪われたアルザス・ロレーヌの奪回を叫ぶ国家主義の声が強まっていた。

1894年、陸軍参謀・大尉であったユダヤ人のアルフレド・ドレフュスが、ドイツのスパイ容疑で逮捕された。

当時フランスは、1889年のブーランジェ事件、1892年のパナマ事件などが続き、共和政治に対する不信が強まっていた。

そしてユダヤ人ドレフェスに有罪の判決が下される。

この物語の中では、証拠に偽造文書製造集団が作った偽造文書が使われたとしている。

ーー以下抜粋

根強いカトリック教国であるフランスでは、ユダヤ人はキリストを裏切ったユダの子孫という単純な憎悪があった。

他のヨーロッパ諸国と同じく、中世から近代に至るまで、ユダヤ人に対する差別意識である反ユダヤ主義が続いていた。

フランス革命によって、自由・平等・博愛の理念からユダヤ人の人権も認められ、差別は否定されたが、民衆の中の差別感は残っていた。

普仏戦争後、第3共和政のもとでのユダヤ系の金融資本や産業資本が利益を蓄え、彼らは共和政を支持する勢力でもあった。

しかし都市の下層民や農民はそのようなユダヤ人の成功に反発する心理も強くなっていた。

ーー引用ここまで

舞台は反ユダヤ主義のはびこるパリだ、しかし、ときにシチリアに飛んだりもする。

仏ブルボン朝の王や、ナポレオン、アレキサンドル・デュマ、フロイト、そしてドレフェスが登場する。

つまり物語は、イタリア統一、パリ・コンミューン、ドレフェス事件などが起きた時代なのである。

ーー

著者は主人公を除いて、登場人物は全員が「実在した」と書いている。

彼らは、カネのために幾多の歴史的事件の渦中でせっせと偽造文書つくりに精を出した人々だった。

彼らの手になるもので、特に日本でもよく知られた文書は『シオンの議定書』である。

それは、ユダヤ人の世界制覇のための手引きのような内容となっている。

この文書については、多くの逸話を挿入するなど、その細工ぶりが語られる。

「文書を偽造する人間はつねに文書で裏付けしなければならない」

「だから私は図書館に通いつめた」(123p)

ーー

「自由によって痴呆となり、獣のようになったアル中患者たちを見よ!」

「群衆は野蛮であり、いかなる時も野蛮に行動する」

ーー

だから、大衆を動かすためには、工夫がいる。

「パリのレストランではノルマンディのレストランよりもリンゴ値段が百倍も高いのはなぜか?」

などと「経済的陰謀を弾劾することだ」。

ーー

革命家、騒擾屋、反革命集団にはつねに仮想敵が必要なのだ。

「他人の肉を食らって生きる捕食民族、かつてのフェニキア人とカルタゴ人のような商人の人種がいるからだ」

「現代ではそれがイギリス人とユダヤ人だ」(230p)

「異なる多くの顔を持つ脅威をつくることはできない、脅威の顔はただひとつでなければならない」

「でないと人の注意は薄れてしまう」(260p)

ーー

「悪は善意を達するための唯一の手段なのだ」

「目的は手段を正当化する」

「政治においては暴力が根本原理であるべきだ」

「腐敗、欺瞞、裏切りを我々はためらうべきではない」(495p)

ーー

フランス革命も、ロシア革命も、毛沢東の革命もこのようにして実行された。

ーー

そして政治的謀略の一手段が文書の偽造である。

主人公は、政治的謀略に加担し、偽造文書を作り続ける。

政治的謀略は、利害が複雑に絡み合うために、主人公は、自分の人格に障害があるのではないかと悩む。

ここでフロイトが登場し、主人公の精神状態を多重人格者であると分析する。

そして物語は、「プラハの墓地」で終わりを迎える。

ーー

「ユダヤ人を糾弾したいのならユダヤ人について話すべき」だ。

と書きながら、それは何重もの防御の言葉をめくらせたうえで恐る恐る記される。

『薔薇の名前』が、バイブルからの解放を告げる内容を持っていた。

それに続く「プラハの墓地」は、世界のメディアを支配しているユダヤからの解放を告げるものとなっている。

そこに至る過程は、まことに難解、分かるものにはわかるが興味がなければ、退屈以外の何物でもない。

知的で飽きないが、浩瀚(こうかん、分厚い)、実に544ぺージ、読むのに三日かかった。

ーー

ーー

(読者の声1)書評に、『プラハの墓地』が取り上げられていてびっくりしました。

老生、ちょうどこの本を読みかけていたのですが、途中で大食漢主人公の食道楽ぶりの描写についていけず、半分もいかないところで投げ出しておりました。

貴誌書評に勇気づけられ完読に挑みたいと思いました。(FJ生、さいたま市)

(宮崎正弘のコメント)後半からが面白い、要するに著者は『シオンの議定書』が偽書であることにしたいのでしょう。

それで、それがパリの偽造文書専門家によって偽造されていく過程を見てきたように詳しく描いている。

ロシア秘密警察やキリスト教教会スパイ網の、怪しげな関係者が入り乱れ、出来た文書を奪い合う。

そして奪った文書を、それぞれの思惑によって書き替えていく。

その改正版が造られていく過程が物語に仕立て上げられる。

日本では「謀略のために偽造文書を使う」というような類いの娯楽小説が殆どありませんね。

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コメント

縦椅子さま

「『薔薇の名前』が、バイブルからの解放を告げる内容を持っていた。
それに続く「プラハの墓地」は、世界のメディアを支配しているユダヤからの解放を告げるものとなっている。」

今日のウンベルト・エーゴ著『プラハの墓地』の、書評を取り上げてくださり最高に解りやすい素晴らしいブログをありがとうございます。
「要するに著者は『シオンの議定書』が偽書であることにしたいのでしょう。それで、それがパリの偽造文書専門家によって偽造されていく過程を見てきたように詳しく描いている。」とあり、「謀略のために偽造文書を使う」というような、手の込んだは日本人にはなじまない手法であるとされています。
今日は重厚な奥深い著書の紹介をしていただき、厚かましくもう読んでしまったうような気になってしまったことをお許しください。

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